発足の挨拶  申 相佑

あいさつ

申 相佑 会長

申 相佑 会長

 時代は20世紀を終え21世紀を迎えようとしている。
 社会の近代化が進む中で、特に20世紀における科学、技術の進歩はまことに目覚しく、その成果は人々により豊かで幸せな生活をもたらした。
 人類の繁栄とより豊かな生活は、いかに科学技術を発展させそれを人々のよりよい生活に役立たせるかにある。
 したがって古今東西、人々は何よりも優れた科学者とその研究成果を尊重し、それを人間の叡智の結晶とみなした。
 激動の20世紀に、わが国の李升基博士をはじめとする数多くの優れた科学者たちは、植民地と冷戦時代に筆舌に尽くし難い苦学を重ねながら民族のための科学研究に心血を注ぎ、至宝の業績を残した。
 先人たちが残した科学研究への情熱とその業績は立派に引き継がれており、在日同胞の中にも厳しい状況の中でもそれを克服し、素晴らしい科学者が育っている。これは在日同胞の宝であり、民族の誇りである。
 今、在日同胞社会の世代が変わり、3世、4世が主導的役割をになう歴史的時期に最も大切なことは、民族の代を引き継ぐ人材育成であり、とりわけ科学者、研究者の養成にある。
 しかし日本の大勢の科学者、研究者の中でとりわけ恵まれない状況下にあるのが在日同胞科学者、研究者である。
 私は企業家であるが、朝鮮大学校で教育を受けたのが縁で連合同窓会副会長になり、人材育成について関心を持ってきた。
 大学同窓会がいかなる形で大学教育に寄与すべきか、さまざまに議論されいくつかの対策も講じているが、何よりも私にできる事から出発しなければと思い、きびしい経営状況の中でも可能な範囲で研究奨励金を出し一人でも多くの科学者、研究者を育成するために力を注ぐことにした。
 それからはや2年の歳月が流れたが受給者のうち、一人の博士が誕生し今年にはもう一人の博士取得者が出るようになった。
 いま一人はすでに博士であるが世界的水準で研究に専念している素晴らしい科学者もいる。
 科学探求の道は決して平坦ではない。
 ある学者は《科学は学者に努力しただけを与えるものであり、人間の全ての精力と一生を要する闘いである》と言ったが、めぐまれない悪条件のなかで科学探求に情熱を燃やし自己とのきびしい闘いの中で努力している在日研究者を見ると頭の下る思いがするのは私一人だけではないであろう。
 私はいま一歩を踏み出したところであるが、同胞社会の宝とも言うべき科学者の育成に一助となれば幸いであり、この事業をますます拡大させ科学振興財団にまで発展させたいと願っている。
 私は多くの心ある人たちがこの趣旨に賛同し、より大きく立派に育てたいと切に願ってやまない。

2 0 0 0 年 1 月
祐伸科学教育振興会
会長  申 相 祐

「科学と未来」創刊号に掲載

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