趙栄貴

博士号を取得しました

趙 栄貴

 現在、東京工業大学で技術員兼研究員として勤めている趙栄貴と申します。おかげ様で今年の3月に筑波大学で博士号を取得することができました。まずはその間ご支援頂いたことに深く感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。
 大学院での専攻は素粒子物理学で、物質世界で究極的に小さな粒子に対して数学やコンピューターを使って性質を調べていました。ヒッグス粒子が発見され素粒子の「標準模型」と呼ばれる基本理論が実験的に実証されてから、現在は「標準模型」を超える理論への探求が盛んに行われています。しかし加速器実験等において「標準模型」では説明のできない現象を探し出すためには、そもそも標準模型自体を精密に予言できていなければなりません。しかしクォークやグルーオンと呼ばれる素粒子に関しては、その特殊性からこの予言が極端に困難になります。そこで重要になるのがスーパーコンピューターを使った数値シミュレーションです。また計算機能力も重要ですが、限りある資源の中で計算を行っていくためには計算手法の開発も重要です。博士過程の研究では特に重いクォークを含む量を精密計算においてネックになる離散化誤差の改良を行い、実際に新しい改良法を用いた数値シミュレーションをスーパーコンピューター上で行いました。
 大学院には東京の実家から離れ茨城県つくば市に住みながら通っていました。そのため経済的にも少なからぬ負担があり奨学金を借りながら生活をしていました。その中で経済的に援助を頂いていたおかげで研究に集中することができました。また素粒子物理学という学問性質上、どうしても一般社会からの研究に対する理解が得られない中支援をしてもらい精神的な支えにもなりました。
 住んでいたつくば市はのどかで自然も多く、研究所が集まっている町でもあり研究環境としては適していました。私の所属は筑波大学でしたが、研究は主に高エネルギー加速器研究機構の研究グループと共同で行っていました。また海外のグループや研究者とも共同研究を行っていたため、多くの研究者と関わりながら研究を進めていくことができました。そのような環境の中で色々な人と議論をしながら楽しんで研究を進めていくことができ幸せだったと思っております。博士号を取得できたのも多くの方々に支えられてもらったおかげだと思っております。
 しかし現在の基礎研究を取り巻く環境や全般的な学生数減少の影響もあり、博士号をとったからといって次の職が保証されているものは何もありません。私も博士過程修了後は職を探していましたが、8月からどうにか技術員という形で働いています。研究ばかりできるポストではありませんが、その中でもどうにか研究に時間を割きながら続けていこうと思っております。また研究以外の世界にも視野を広げて自分の可能性を模索していきたいとも考えております。今後のことははっきりとわかりませんが、いずれにせよ博士課程で培った知識や経験は今後の人生において活かせるものだと思っておりますので、自身がやってきた事に誇りを持ってこれからも精進していくつもりです。
 そしてこれからは未来ある後輩たちのために自分ができることを探し実行していこうと思っております。特に支援を頂いた祐伸科学教育振興会の皆様方と共に、在日コリアンの学生や研究者を支援していく事業に何らかの形で貢献できればと思っております。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。末筆ながら関係者皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

プロフィール

趙栄貴(チョウ ヨンギ)
生年月日 : 1987年7月21日 (満28歳)

略歴
2006年 3月 東京朝鮮中高級学校 卒業
2006年 4月 朝鮮大学校 理工学部 理学科 入学
2010年 3月 朝鮮大学校 理工学部 理学科 卒業
2010年 4月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物理学専攻 博士前期課程 入学
2012年 3月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物理学専攻 博士前期課程 修了
2012年 4月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物理学専攻 博士後期課程 入学
2015年 3月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物理学専攻 博士後期課程 修了
2015年 4月 東京工業大学 理工学研究科 流動研究員
2015年 8月 東京工業大学 理学部 技術員

「科学と未来」第16号に掲載

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